2015年ぐらいに公式企画新人クリエイター発掘6社合同企画「冲方塾」に小説応募した作品についてです。
マルドゥックシリーズの二次創作をするという企画でした。
冲方塾小説部門応募作品へのコメント (小説『マルドゥック』シリーズ)
『Emergency summonS』
★冲方さんからのコメント
https://bookshorts.jp/ubukata-jyuku2015ma/2/
招集された場所で起こるワン・シチュエーションもの――を想定した出だしがなかなか素敵。人物描写だけなのに、どういう展開になるのか気になってしまう引きも達者です。
冲方先生による評価は以下の通りです。
『Emergency summonS』シノプシス
※当時のまま修正はしていません。
バロットがマルドゥック市へ謎の非常招集に呼び出され応じる。
招集にはシェルやベル・ウィングなどバロットに関係する人物達も居た。
死の匂いを嗅ぎ取ったバロットは全員から招集を受ける身に覚えがあったかを聞く。
皆、大事な人の形見としてブルーダイヤが贈られていた。
ブルーダイヤを楽園のプールで検索するとマルドゥック市を更地へ変える計画を知る。
計画阻止の為、天国への階段を登り核の装置と同化するバロット。
『Emergency summonS』冒頭本文
※当時のまま修正はしていません。
(モバイル対応のため改行のみ追加しています)
少女の面影を薄く残した横顔は、遠くからでも美しく輝く螺旋階段のモニュメントを見ていた。
マルドゥック市の象徴でありかつては市民の夢を飲み込んだ“天国への階段”。
階段を登り詰めようと多くの人間が挑戦し破滅していった悪夢の化石的記念建造物。
彼女もあの場所に立った事があった。
「あの時とは違う……」
泣きたくなるような気持ちとは裏腹に晴天。
誰かが見ているような感覚を感知し、空を見上げると彼女の長い髪が揺れた。
腰まで伸びた黒髪ツーテール——下の三分の一は紫に染められている——から、さらさらと金の粉が吹きこぼれ風に流れていく。
昔処置した人工皮膚の延長線上、進化したルーン・バロット——いつしか定着した雛料理の名——の髪。
自在に動かすには至らないが、長さに比例して周囲の状況をまるでネズミが匂いで判断するかのように理解できた。
ツーテールに似合うようにしてタイトに着ている衣服は、真っ白な長袖のタートルネックにヒップの辺りで真っ黒で出来たフリルのキュロットワンピース、柄の入ったタイツに黒のピンヒール。
二十七歳にしては少女然としているのは十年程前に年齢も置いてきてしまったのだろう。
本人も自身の年齢を理解しているとは思いがたい。ただ年数が経過した事だけはいつも心から訴えかけられている。
彼女バロットは十五歳の時にここマルドゥック市にて一度死んだのだ。
その時の事は鮮明に覚えているようでいて夢の中にいるような気持ちにさせられ、幸せな気持ちと共に苛まれる。
不幸な事は続いた。
それは人が起こした不幸。奇跡も続いた。それは人が働きかけた奇跡。
一つ目の不幸はバロットはある男の企みにより焼死したことだが、蘇生後は天国にいるような楽しい時間を過ごす事が出来た。
それも全て二人の男性がバロットに与えるのではなく選ばせてくれたからだ。
これが一つ目の奇跡だった。
マルドゥックスクランブル09——人命保護を目的の緊急法令——にて昏睡中のバロットが選び取った人工皮膚—ライタイト—で皮膚を蘇生してくれ電子攪拌——スナークという生き残るための措置をしてくれたドクターイースター。
電子攪拌のおかげであの忘れられない十五歳の日々を過ごす事が出来た。
斑模様のヘアスタイルに白衣姿という奇抜なドクターイースターにちゃんとした格好を求めたのは何度あったのか。今ではあのおかしな姿が懐かしい。
同じくマルドゥックスクランブル09でバロットを救った人物、いや万能道具存在のウフコック・ペンティーノの存在は忘れられない。
ウフコックは小さな金色のネズミで人語だけでなく人々の機微を理解した紳士だった。
バロットの心が壊れなかったのはウフコックが居たからだと云っても過言ではない。
バロットはふと視線を左手へと落とした。
薬指に細い指には不格好な大きさのブルーダイヤが填められていた。
「ウフコック……」
そういってバロットは指輪に口付けた。
応募したもう1作『GO-ON 轟音』について
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