2015年ぐらいに公式企画新人クリエイター発掘6社合同企画「冲方塾」に小説応募した作品についてです。
マルドゥックシリーズの二次創作をするという企画でした。
冲方塾小説部門応募作品へのコメント (小説『マルドゥック』シリーズ)
冲方先生による評価は以下の通りです。
『GO-ON 轟音』
★冲方さんからのコメント
https://bookshorts.jp/ubukata-jyuku2015ma/2/
バロットとかつての客というアイディアに、思わずこちらが緊迫の展開を期待してしまいました。バロットが熱を出して耳鳴りに襲われる描写が生々しくて良いです。
『GO-ON 轟音』シノプシス
※当時のまま修正はしていません。
バロットとウフコックが委任事件担当官として二度目の仕事を引き受けたが、待っていたのはゴシップと呼ばれていた娼婦時代のバロットの元客だった。
ゴシップの与太話に真実が含まれ命を狙われる事になる。
真実を探りながらゴシップを敵から守る。敵は楽園育ちのティルナノーグという女性だった。
傷を受けても若返るように脱皮できる特殊能力を備えた彼女とゴシップを楽園に移住させる事を承認し最終的にバロット達は和解する。
『GO-ON 轟音』冒頭本文
※当時のまま修正はしていません。
(モバイル対応のため改行のみ追加しています)
ただひたすらに酷い耳鳴りがした。
それは天候のせいだと思った。
近くに避雷針があるのか、度々雷が落ちては耳や腹の奥まで響かせていく。
熱が出たのは珍しかった。
金色の小さな相棒、ウフコックと二人で事件屋稼業をするようになってからは初めての事だと思う。
ウフコックのお気に入りのサスペンダー付きのズボンを着たお腹が上下している。
ずっと心配して寄り添ってくれていたのか、寝息を立てて私が横になる枕に頭を乗せて寝ている。
この凄まじい音をものともせずに。
「本当に空が落ちてきそうなぐらい凄い音……」
耳鳴りが止まないのは雷だけのせいじゃないのは私もわかっていた。
ルーン・バロット。
そう名乗って短くない年月が経っている。
名前の由来は私が委任事件担当官になる前にやっていた娼婦の時に、つけられた名で本名みたいに感じている。
娼婦だった事で、得たものもあったかもしれないしなかったかもしれない。
少なくとも孤独であっても孤立はしていなかった。
今の状態——ウフコックたちとの充実した日々——を知るまではそう信じていた。
とにかく娼婦時代の客が今回のターゲットだった。
依頼主になるかはまだわからないそうだ。
ウフコックは「狙われている匂いがする」といっていたが、どこまで把握していて煮え切らないのかはわからない。
まだ私の知らないウフコックの伝で、今回の仕事は決まった。
私の実戦運用第二弾といった感じだそうで、ドクターイースターは楽園と呼ばれる最高峰の研究施設でバックアップに徹している。
皮肉にも一番知られたくない事を、一番ぺらぺら喋りそうな元客、名前は確か“ゴシップ”と呼ばれていた。
本名はきっとウフコックが知っていそうな気がする。
ゴシップと呼ばれるように色々な噂話や流行について娼婦の女の子達に楽しそうに話していた。
その中には事実もあったし、脚色された嘘も混ざっていて、とにかく私以外の女の子達はゴシップの事が好きだった。
分け隔てなく愛情を注いでくれていると思う事が出来たから。
ウフコックが私が昔何をしていたのかをどこまで知っているか……多分全部知っていてそれでも私を相棒だと呼んでくれているのだろう。
こうして昔の自分と向き合わされるのは正直うんざりだった。
きっと自分の事件を解決する為に必要だったあの法廷がよほど堪えたのだと弁護士や検事たちに責任転嫁しておこうと思う。
そんな事を熱が出ている頭で考えたからか、どんどん耳鳴りが頭の中を塗りつぶすような大きな音になってきていた。
早く調子を戻して、ターゲットを見張る必要があるのにと焦燥感が生まれる。
それについてもウフコックは「心配ない、動きは常にキャッチしている」といってくれていたが、このままでは足手まといの烙印を自ら押す事になりそうだ。
廃棄処分される自分が頭に浮かんだところで意識が途絶えた。
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